PEEK樹脂とは?加工方法や特徴など網羅解説!

2023年05月19日(金)
2023年05月23日(火)

樹脂は加工や成形がしやすい、軽量である、安価であるといったメリットがある一方で、金属と比較すると熱に弱く高温になると変形してしまう、強度が低く力が加わると割れてしまうことがある、薬品が付着すると溶けてしまうといったデメリットもあります。

PEEK(ピーク)樹脂樹脂のメリットはそのままに、弱点を補った素材です。普通の樹脂では対応できない用途にも使用できる、非常に可能性を秘めた画期的な樹脂といえます。この記事ではPEEK樹脂の特徴や加工方法についてご紹介します。

PEEK樹脂とは

PEEKとはPoly Ether Ether Ketone(ポリエーテルエーテルケトン)の略です。一般的な樹脂はエーテルとケトンを結合させて生成しますが、PEEK樹脂は芳香族ポリエーテルケトンを原料としています。1978年にイギリスのインペリアル・ケミカル・インダストリーズが商業生産を開始した、比較的新しい樹脂です。

加熱すると柔らかくなり、冷却すると固化する熱可塑性樹脂の一種であり、一般的な樹脂と同じようにペレット状になった材料から成形加工を行います。外見は着色や塗装をしていない状態では灰色をしており、わずかな光沢を帯びています。

耐熱性や機械的強度が非常に高い、いわゆる「スーパーエンプラ」の一つに分類されます。

今さら聞けない…スーパーエンプラとは?

樹脂には耐熱性や機械的強度によって「汎用プラスチック」「エンジニアリングプラスチック」「スーパーエンジニアリングプラスチック」という3つの分類がなされます。

汎用プラスチックはいわゆる普通の樹脂であり、耐熱温度は100℃以下です。ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられます。

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は100℃以上の高温にも耐えられ、機械的強度も汎用プラスチックと比較すると高いです。ポリカボネートやポリアミドなどが挙げられます。

スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)は耐熱温度が150℃以上で、エンジニアリングプラスチックよりもさらに機械的強度が高いです。ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、そしてPEEK樹脂もスーパーエンプラに分類されます。

樹脂の中でも最高ランクに位置するのが、このスーパーエンプラなのです。

PEEKの特性

PEEK樹脂の最大の特徴は耐熱性といえます。一般的なスーパーエンプラよりもさらに高く、250℃まで耐えることができます機械的強度も高く、引張強度は90MPaで、アルミの一種であるA6063-Oと同等です。他にも耐放射線性、耐薬品性や難燃性が高く、食品衛生法にも対応できるというメリットがあります。もちろん、樹脂であるため軽量なのも大きな強みです。

一方で性能が高い分一般的な樹脂よりも高価であることと、入手がしづらいというデメリットもあります。また、成形時の熱収縮率が大きいため、設計や加工の難易度も高いです。

優れている特性 弱点
耐熱性に優れている:連続使用温度:250度 価格が高い
機械的強度に優れている:引張強度90MPa 入手しずらい
耐放射線性に優れている 熱収縮が高い ※成形時
耐薬品性に優れている
難燃性に優れている
食品安全性:食品衛生法に対応
軽量 ※樹脂のため

PEEKの種類

スーパーエンプラという樹脂の中でも最高のランクに属するPEEK樹脂ですが、さらにその中でも特性によって「標準」「摺動」「強化」「導電」「帯電防止」「医療」という6つのグレードに分けられます。PEEK樹脂を製品や部品の材料として採用する際には、用途に合わせてグレードを選ぶことが重要です。それぞれのグレードの特徴について詳しく見ていきましょう。

標準グレード

基本的にPEEK樹脂と呼ばれるものはこの標準グレードに属します。もっともベーシックなグレードではありますが、上記のとおりスーパーエンプラも含めたその他の樹脂と比較して優れた耐熱性と機械的強度を有しています。また、他のグレードよりも伸びがあり、強靭であるというのも強みです。加工性にも優れており、旋盤やマシニングセンタを用いた切削加工もしやすく、高精度な仕上げも可能です。

摺動グレード

摺動とは物を滑らせて動かすことを指します。炭素繊維や黒鉛、四フッカエチレンをそれぞれ10%ほど添加したPEEK樹脂が摺動グレードと呼ばれます。これらの添加物によって摺動性(滑りやすさ)と耐摩耗性が向上します。力を伝える箇所の部品に採用することで動作がスムーズになるため、歯車や軸受、ライナーなどの摺動部品の材料として用いられることが多いです

強化グレード

強化グレードとはさらに機械的強度を高めたPEEK樹脂のことを指します。ガラス繊維や炭素繊維を添加することで、強度とモジュラス(引っ張りや圧縮などのひずみが加わった時、元の形状に戻ろうとする力)が高くなるため、破損や変形を防ぐことができるのです。ただし、機械的強度が向上している分、切削加工がしにくいという難点もあります。

導電グレード

導電グレードとは炭素繊維を添加して誘電性を高めたPEEK樹脂のことを指します。誘電性が高くなれば電気が通りやすくなるため、特に静電気による障害やほこりの付着を防ぎたい箇所の部品に使われることが多いです。また、炭素繊維が多く含まれているため、機械的強度や摺動性、耐摩耗性も高く、熱がとどまりにくいといった長所もあります。一方で、やはり強化グレードと同様切削加工がしにくいというのが弱点です。

帯電防止グレード

帯電防止グレードとは表面抵抗率が10^6~10^9 Ωの帯電防止性を有するPEEK樹脂のことを指します。電気がとどまりにくい性質があるため、半導体や装置類の部品として用いられます。PEEK樹脂と同様に切削加工がしやすく、高精度に仕上げられるという利点がある一方で、材料の形状バリエーションが少なく、プレート材の状態でしか入手できないのが難点といえます。

医療グレード

その名のとおり医療現場で使うことを目的として開発されたPEEK樹脂です。生体適合性が高く、耐熱性や耐薬品性、耐放射線性にも優れており、金属の代替素材として医療機器や手術器具に使われます

PEEKの加工性

PEEK樹脂は非常に機械的強度が高く堅牢な樹脂ですが、加工がしやすいのが特徴です。耐熱性が高く、熱による収縮もしにくいため、安定した加工が可能です。一方で金属よりは収縮率が高いので、加工温度が上がりすぎないようにする、収縮を見越した取り代を設けるなどの工夫が必要となります。

PEEKの加工方法

PEEK樹脂の加工方法としては「切削加工」と「射出成形」という2種類があります。それぞれの加工方法について詳しく見ていきましょう。

PEEKの切削加工

切削加工とは旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどの工作機械を用い、工作物を切断したり、削ったり、穴を開けたりする加工のことを指します。プレート状の素材にこれらの加工を施して、製品や部品を形作ります。一般的な樹脂は金属と比べると寸法安定性は劣りますが、PEEK樹脂は精密加工も可能で±0.01〜0.05mmと金属並みの精度を出すことも可能です。

PEEKの射出成形

射出成形とは柔らかく溶けた状態の素材を金型に押し出し、その後に冷却固化させて製品を形作る加工方法です。材料として溶けやすいペレット(粒)状の樹脂を用います。代表的な樹脂の加工方法の一つといえ、熱可塑性樹脂であるPEEK樹脂も、射出成形によって成形が可能です。量産に向きますが、表面の精度は切削加工に劣ることと、複雑形状を形作るのは難しいといった難点もあります。

成形加工→切削加工

成形樹脂で形作り、その後に切削加工を行って仕上げるケースもあります。特に複雑形状や寸法精度が求められる製品や部品を製造する場合、前述のとおり射出成形だけでは対応ができないこともあり得ます。その場合は射出成形で大まかな形を作り、切削加工で仕上げるという流れになります。

軽量化にはもってこいの素材

樹脂の最大のメリットはやはり軽量化が図れることです。鉄と比較して重量は1/6、金属の中でも軽量なアルミと比較しても1/2ほどです。一方で、樹脂は耐熱性や機械的強度、耐薬品性が低いという弱点もあります。

PEEK樹脂であれば軽量化が図れて、かつある程度の耐熱性や機械的強度、耐薬品性を得ることが可能です。高温下や力が加わる箇所で一般的な樹脂が使えない場合でも、PEEK樹脂であれば対応できる可能性があります

PEEKはどんな使用用途で使える?

PEEK樹脂は機械的強度や耐熱性が高いため、自動車、航空・宇宙分野、3Dプリンタ、各種産業用機械、ロボットアームなどに使われています。誘電性や帯電防止性にも優れるため、電子部品や半導体・液晶製品、精密機器の部品の素材としても重宝されています。洗浄がしやすく衛生的であるため、医療機器や医療器具(メスや注射針)、食品製造装置などにも使われています。

高価なためPEEK樹脂そのものはなかなか見かける機会がありませんが、私たちの生活を支えている重要な存在なのです。

PEEKの加工についてご相談承ります

金属からPEEK樹脂に置き換えることで、軽量化が実現でき、製品の性能アップにつながります。また、機械的強度や耐熱温度に問題があって一般的な樹脂を使用できない場合でも、PEEK樹脂であれば対応できる可能性があります。PEEK樹脂が課題を解決する切り札になるかもしれません。

株式会社フカサワでもPEEK樹脂を取り扱っており、加工も承っております。設計から試作、製造、検査、納品まで一貫して対応可能。「こんなものを造りたい」「PEEK樹脂に置き換えても問題ない?」といった漠然としたお問い合わせも大歓迎です。PEEK樹脂のことなら弊社にご相談ください。

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