金属の宿敵とも言える錆。知らないうちに部品やパーツなどが錆びていた、錆が発生して製品が使い物にならなくなってしまったという経験がある方もいらっしゃるかと思います。今回は錆のメカニズムや種類、防ぐ方法について、金属加工の専門家が解説します。
金属が錆びるメカニズム
そもそも錆の原因は金属の酸化現象です。たとえば鉄(Fe)は放置しておくとやがて茶色い錆が発生します。鉄分子のイオンが空気中に含まれている水(H2O)と酸素(O)と結合し、水和酸化鉄(Fe2O3(H2O))という物質に変化します。これが茶色い錆の正体なのです。
金属が水に濡れるとすぐに錆びてしまうのは、水と酸素に反応しやすくなるからです。ちなみに水と酸素が存在しない真空中では錆が発生することはありません。酸化した(=錆びた)金属は電子を失うため金属表面から脱落し元の形状や強度を保てなくなるため、錆のことを「腐食」と呼ぶこともあります。
錆びることのデメリット
錆が発生することでさまざまなデメリットが生じます。一番目立つのはやはり美観が損なわれることです。金属が錆びると美しい光沢が失われ、茶色や黒に変色してしまいます。
錆が発生すると金属がもろくなるため、強度も低下します。部品が脱落したり破損したりする危険性が高くなります。たとえばトタンなどの建造物の部品や自動車の部品などに錆が発生すると命に関わる事故にもつながりかねません。
また、前述の通り酸化した金属は表面から脱落します。たとえば機械の部品が錆びることで製造している製品に異物が混入する、精度が低下するといった品質上のトラブルを引き起こすことがあります。金属製の部品や製品が錆びることでさまざまなトラブルが発生するリスクが高くなりますので、しっかりと対策しておくことが重要です。
錆を防止する加工方法(防食)
金属に「防食」という加工を施せば錆から守ることができます。たとえばステンレスは鉄をベースにした金属ですが錆びずらいです。ステンレスにはクロムという金属も含まれていて表面に不動態皮膜が形成されるからです。不動態皮膜が金属表面を覆い内部の金属の代わりに酸素と結合することで、ステンレスに含まれている鉄が錆びにくいのです。
このように性質が異なる金属を混合させて錆に強い金属素材を作り出すことを「合金」と言います。
防食種別 | 方法 |
---|---|
塗装(とそう) | 金属表面に塗膜で保護をする方法 |
鍍金(めっき) | 表面に金属の薄膜を被覆する方法 |
薬品制御 | サビ抑制薬剤を使う方法 |
防食さび形成 | 表面にサビ形成し、内部を守る方法 |
環境制御 | 錆びにくい環境を作り出す方法 |
金属の表面を塗膜で保護する「塗装」もよく知られる防食加工です。自動車のボディも塗装を行うから雨や雪、潮風に晒されても錆びずらいのです。錆びにくい金属で表面を覆う「めっき」もよく使われます。亜鉛の被膜は空気や水を通しにくく、仮に被膜が傷ついて内部の金属が露出したとしても、亜鉛のイオンが内部の金属よりも早く溶け出して酸素と結合するため、錆を防ぐことができます。
ほかにも錆を抑制する薬剤を塗布する「薬品制御」、あえて表面に錆を発生させてそれ以上腐食させない「防食さび形成」、錆びにくい環境を作り出す「環境制御」など、さまざまな防食法があります。
防食効果の評価方法
防食加工を行うことで錆を防ぐことはできますが、重要なのは「本当に効果があるのか?」 「どれくらい効果が持続するのか?」ということです。そのために製品の防食効果を評価する必要があります。とはいえ、数年あるいは数十年という歳月を使って防食効果があるかどうかを検証するのは現実的ではありません。そこで、試験片を用いた実験によって腐食の評価を行います。
方法 | 内容 |
---|---|
ph | 酸塩基性を制御した水中や土壌で酸、塩基による腐食を評価する。 |
対候性 | 風雨や気温の変化など人工的に作り出した環境下で耐候性を評価する |
大気暴露 | 想定された使用環境下で大気中に露出させ腐食を評価する |
塩水 | 塩水を噴霧して乾燥させるというサイクルを繰り返して腐食を評価する |
紫外線 | 太陽光に晒して紫外線による劣化を評価する |
ガス | ガス雰囲気下における腐食を評価する。 |
オートクレーブ | オートクレーブによって温度と圧力を制御して経時変化を評価する |
複合サイクル | 上記の項目を複数組み合わせて腐食を評価する |
以上のような方法で評価実験を行うことで、防食性を検証することができます。
錆に強い3つの金属種類
すべての金属が錆びに弱いというわけではありません。金属の中には空気中に長期間晒されたり、水に濡れたりしても腐食しないものも存在します。部品やパーツ、製品の素材を選定する際には錆びにくい金属を選定することが重要です。ここからは錆びに強い3つの代表的な金属種類について見ていきましょう。
貴金属類
金、銀、プラチナ、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、イリジウムの8種類があります。貴金属は金属イオンが溶け出しにくい、つまり酸素と結びつきにくい性質があるため、錆が発生しにくいのです。
特にイメージしやすいのは金やプラチナです。これらの材質でできた指輪やネックレスは常に人の肌に触れるという過酷な状況下で使用されるにも関わらず、何年経っても錆びることはほとんどありません。これが鉄だったらすぐに錆びてしまうでしょう。歯の詰め物に金歯が使われるのも、常に水分に晒される口腔内でも錆びにくいからです。
不動態皮膜類
前述のとおり、不動態皮膜を作る合金も錆びにくいです。代表的なものとしてステンレスが挙げられます。身の回りではキッチンのシンクに使われていますが、あれだけ水に晒されてもほとんど錆びることがありません。指輪や腕時計などのアクセサリにも使われています。
ほかにも不動態皮膜を形成する金属材料としてアルミ合金やチタン合金、ニッケル合金などが挙げられます。アルミは飲料の缶、鍋やフライパン、窓のサッシ、タイヤのホイールなどさまざまなものに使われています。いずれも水に晒されやすい環境下にありますが、腐食することはありません。チタン合金やニッケル合金はやはり腐食しにくいという理由から自動車や航空機、医療など幅広い分野で活用されています。ちなみに、不動態皮膜を作る合金は錆びずらいだけでなく、身につけても金属アレルギーにもなりにくいというメリットもあります。
表面錆で内部を守る金属類
腐食をさせないため、あえて錆びさせるケースもあります。代表的なものに銅や亜鉛が挙げられます。これらの金属は表面に錆が発生するものの、それが保護膜の役割となり内部が腐食しにくくなっています。鎌倉の大仏像やアメリカの自由の女神像は銅でできています。青っぽい色をしているのは「緑青」という錆です。表面が錆に覆われているのにも関わらず、野外に長い歳月晒されていても腐食して倒壊することはありません。これは錆である緑青がコーティングして内部を錆から守っているからなのです。
ほかにも耐候性鋼という合金鋼が挙げられます。同様に錆が表面をコーティングしてくれるため、塗装する必要がないというメリットがあります。橋梁や建造物の外壁に使われます。
錆色による特徴
錆と一口に言ってもさまざまな種類のものがあり、金属の種類や酸素と結合して出来上がった化合物によって異なります。一番大きな違いは色で、主に赤錆、青錆、黒錆、茶錆、白錆、緑錆、黄錆という7種類が存在します。それぞれどのような特徴があるのか見ていきましょう。
赤錆
普段私たちが最もよく目にする錆と言っても過言ではありません。鉄、鉄鋼、鋼、銅合金などさまざまな金属で見られます。鉄が酸素と結びつくことで、水酸化第二鉄やオキシ水酸化鉄、酸化第二鉄などに変化します。これが錆の正体です。
特に鉄は水や酸素と結合してどんどん化学反応を起こすため、放置しておくと腐食が進行してボロボロになってしまいます。ただし、赤錆が例外的に変化して保護皮膜を形成し、新たな腐食を防ぐ働きをするケースもあります。また、銅に関しては酸素と結びつくことで酸化第一銅に変化しますが、これは保護皮膜のような役割をしてくれる良質の錆です。
青錆
銅に発生する錆で、前述した緑青がこれにあたります。銅が錆びると酸化銅という化合物が生まれますが、その上にできるのが青錆です。赤錆である酸化第一銅が酸素や水、二酸化硫黄と結合することで塩基性硫酸銅(CuSO4・3Cu(OH)2)、いわゆる青錆が形成されます。前述のとおり、銅を腐食から守る保護膜の働きをします。
黒錆
鉄や銀に発生する錆です。これらの金属を高温に加熱することで発生する錆で、上記の青錆と同様内部を腐食から守る良い錆として知られています。黒錆が発生した鉄を四酸化三鉄(Fe₃O₄)と言います。中華鍋が黒いのはこの四酸化三鉄を使っているからです。
銀が黒ずむのも黒錆が原因です。内部が腐食することはないので、クリーナーを使えば簡単に落とすことができます。
茶錆
鉄に発生する錆です。茶錆には複数種類があり、赤錆のように内部まで腐食が広がるものもあれば、黒錆のように表面だけに発生して保護被膜として働くものもあります。また、銅にも茶色い錆が発生することがありますが、これも銅を腐食から守ってくれる良質な錆です。
一方で明るい茶色をしている水酸化第二鉄やオキシ酸化鉄は腐食が進行しやすい危険な錆です。色が濃いめの茶錆は耐候性鋼などに見られます。
白錆
アルミニウムや亜鉛に発生する錆です。アルミニウムの表面には酸化アルミニウムが形成され、さらにベーマイトやバイヤライト、ギブサイトなどの水和酸化物に変化します。これが白錆の正体です。
亜鉛に関しては表面に形成される水酸化亜鉛と二酸化炭素が反応して塩基性炭酸亜鉛が生成され、これが白錆と呼ばれています。
いずれも金属表面の保護膜の働きをするため、白錆も良質の錆とされています。
緑錆
ニッケル、鉄、銅などに発生します。ニッケルは非常に錆に強いですが、まれに緑色に錆びることがあります。銅は前述のとおり緑青という青錆が発生しますが、パティナという緑色の錆が発生することもあります。鉄はまれに緑錆が発生することがありますが、すぐに赤錆に変化します。
黄錆
鉄や亜鉛メッキを施した鋼板に見られます。とくに鋼板をメッキ加工する過程で発生することがあります。原因ははっきりとわかっておらず、オキシ水酸化鉄に発生する、塩基性水酸化第二鉄に発生するなど諸説あります。
防食を踏まえた加工もご相談ください
錆にはさまざま種類があります。いわゆる赤錆は部品やパーツ、製品を腐食させる金属の宿敵と言えますが、中には錆自体が腐食を防いでくれる保護膜の働きをしてくれる良い錆も存在します。金属加工を行う上では悪い錆を防ぎ、良い錆は特性を活かすというように、錆と上手く付き合っていくことが重要です。
株式会社フカサワは金属の専門家として防食も踏まえた加工もご提案可能です。ねじや部品・パーツの専門商社として、ご要望どおりの商品を安定的に供給。特注品の対応も可能です。
「これまで使っていた部品に錆が発生して困っている」「従来品では耐腐食性に問題がある」……このような課題がございましたら、ぜひ私たちにご相談ください。
«前へ「【国内屈指!金属部品加工の地:新潟!】歴史的成り立ちや特徴を解説」 | 「【金属融点一覧付き】金属の融点・沸点と役立つ知識を解説!」次へ»