樹脂(プラスチック)の硬度とは?試験方法から役立つ情報を解説

2021年08月12日(木)
2021年08月30日(月)

硬度とは

硬度とは読んで字の如く素材の「硬さ」を数値化したものです。グニャっと曲がったりへこんだりすれば「柔らかい」、全然変形しなかったりカチカチになっていたりしたら「硬い」というように、物質を触ることでも硬さは感覚的に判断できます。しかし、人によって硬さの感じ方は違います。同じ物質でも、ある人は「硬い」と感じれば、ある人は「柔らかい」と感じることもあるかもしれません。それを客観的な数値化したものが「硬度」というわけです。

傷がつきにくいものを「硬い」と表現することもあれば、変形しにくいものを「硬い」と表現することもあり、一口に「硬度」と言ってもさまざまです。硬度を調べることで、その素材の機械的性質がどれくらいあるのかがわかるようになります。

そもそも、なんで硬度を調べるの?

部品や製品は壊れないことが前提です。たとえば100kgfの力がかかる場所にはそれに耐えられるだけの素材を使わなければいけません。仮に50kgfしか耐えられない素材を使うとすぐに破損してしまうでしょう。

部品や製品の品質を担保するためには、それにどれくらいの力が加わるのか?を把握する必要があります。そしてその力に耐えうるだけの素材を選定する必要があります。試験を行って硬度を出せば、その素材が使えるかどうかを判断することができます。

また、製品や部品によって「凹みにくい」「傷がつきにくい」「割れにくい」など、求められる性質も異なります。硬度を調べることで、これらの性質も把握することが可能です。

【豆知識】硬さは測定ではなく、試験?

たとえば、1cmという“長さ”は明確に決まっています。1gという“重さ”も同様です。こうした明確に決まっているものを測ることを「測定」と言います。

一方で“硬さ”は明確な基準が決まっていません。硬度は“硬さ”を定義づけた上で試験を行うことでわかる「工業量」です。したがって、ものさしを使って長さを測る、重量計を使って重さを測るというように、道具を使って単純に測ることはできません。

実際に素材を用いて「どれくらいの力を加えてどれくらい変形するのか?」をテストする必要があります。ですから、硬さを測ることは「測定」ではなく「試験」と言われているのです。

試験方法の前に!金属と樹脂、単純な比較はできない

金属でも樹脂と同じように硬度試験が行われますが、両者には大きな違いがあります。金属は応力を取り除いても形が元に戻らない「塑性変形」する素材です。たとえば針金を一度曲げてしまうと自力では元に戻りません。一方樹脂は応力を取り除いたときに形が元に戻る「弾性変形」をする素材です。プラスチック製の下敷きを曲げても手を離すと元に戻るのは弾性変形しているからなのです。

塑性変形する物質と弾性変形する物質では硬さの求め方や試験の方法も異なるため、単純に金属と樹脂の硬さを比較することはできません。それぞれに合った試験を行う必要があります。

3つの硬度試験方法

樹脂の硬度は主に「押し込み硬さ」「引っかき硬さ」「反発硬さ(ショア硬さ)」の3つの方法で試験を行うことができ、求められる性質に応じて実施します。

以下でそれぞれの特徴や試験の方法、および算出できる硬度について解説します。特にこれから樹脂の硬度試験を行う方、樹脂素材の選定をされる方は念頭に置いていただければ幸いです。

押し込み硬さ

試験片に荷重を加えることで樹脂の硬度を求める試験です。押し込み硬さ試験には試験片に鋼球やダイヤモンド圧子を押し付けてできた窪みの深さから硬度を求める「ロックウェル硬さ」と、圧子を押し付けてその押し込み深さから硬度を求める「デュロメーター」など、さまざまな方法があります。いずれも、「荷重をかけることでどれくらい窪んだか?」という試験を行うことで硬度を算出することができ、たとえばロックウェルであれば
HRA(試験荷重:588.4N (60kgf))~HRK(試験荷重:1471N (150kgf))
という記号で示されます。

窪みの深さから硬度を算出するため、比較的スピーディーかつ容易に硬度を調べることができるのがメリットです。

引っかき硬さ

試験片に鉛筆の芯を押し付け、3mm以上の傷の有無によって樹脂の硬度を求める試験です。「鉛筆法」とも呼ばれます。手描きでも可能ですが、JISでは専用の機械を用いることが奨励されています。鉛筆の芯にはご存知のように「H」、「HB」のように硬さがあります。鉛筆の芯で荷重をかけていき、傷がつかなくてかつ最も硬い鉛筆の硬度が引っかき硬さとして評価されます。

鉛筆の芯の硬さには6B・5B・4B・3B・2B・B・HB・F・H・2H・3H・4H・5H・6Hの14段階があり、一番柔らかい6Bから試験を行っていきます。Hまで傷ができず、2Hではじめて傷ができた場合、その前段階であるHが引っかき傷硬さとなるわけです。

反発硬さ(ショア硬さ)

ショア硬さとは試験片にハンマーを落下させたときに、跳ね返る高さを測定することで硬度をテストする方法です。ハンマーの跳ね返りの高さによってHS(Hs)という単位で表されます。

子どもの頃にスーパーボールで遊んだことがある方もいらっしゃるかと思います。そのときによく弾むよう手で触って硬めのボールを選んだ記憶があるかもしれません。柔らかいボールよりも硬いボールのほうがよく弾むのですが、それにはこの反発硬さが関係しています。樹脂は硬ければ硬いほどよく反発する性質があります。

窪みをつける押し込み硬さや、鉛筆の芯で傷をつける引っかき硬さと異なり、反発硬さ試験の場合は損傷させることがないので、試験片をそのまま部品や製品として使うことができます。

硬度換算表とは?

以上のようにさまざまな方法で樹脂の硬度を調べることができます。しかし、それぞれ基準や単位が異なります。たとえば、“ロックウェル硬さ85HRA相当”が基準になっているとしましょう。ショア硬さのみがわかっている素材がある場合、それが“85HRA相当”を満たしているかどうかがわかりにくいです。

そこで、硬度換算表を活用します。硬度換算表とは「ロックウェル硬さ●●の場合は、ショア硬さは○○に相当する」というように、別の試験で得られる硬度単位へ変換できる表のことです。これがあれば仮に求める硬度を算出する試験が行われていなかったとしても、別の方法で算出された試験結果がわかっていれば、硬度換算表を用いて基準を満たしているかどうかを判断することができます。

硬度換算表における記号解説

硬度換算表には「ロックウェル硬さ(HRA、HRB、HRC、HRD)」「ビッカーズ硬さ(HV)」「ショア硬さ(HS)」「ブリネル硬さ(HB)」という硬さ記号が記載されていて、それぞれ換算が可能です。硬さの値は「85HRA」というように硬さ記号の前に記載されます。また、押し込み硬さ試験の場合はかけた荷重も記載されます。「700HV30」は、30kgfの荷重をかけたときのビッカーズ硬度が700であることを示します。

たとえば「ロックウェル硬さ85HRA」と同じ行を見ればビッカーズ硬さは940HV、ショア硬さは97HS相当であることがわかります。

樹脂材料選定で他に見るべきポイントとは?

今回は樹脂の硬度について解説しました。部品や製品の破損を防ぐためには素材の硬度が基準を満たしているかどうか、試験を行って把握する必要があります。ただ、硬さだけを調べただけでは不十分です。他にも「機械的性質」「熱的性質」「化学的性質」「電磁気学的性質」「光学的性質」「物理的性質」など、さまざまな性質を見極めて素材を選定する必要があり、それは容易なことではありません。部品の置き換えなどではじめて樹脂素材を使われるケースなどではなおさらです。

樹脂材料選定のポイントや硬度以外の性質については「樹脂(プラスチック)材料の特性~金属との使い分けを知ろう!」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

お困りでしたら私たちにご相談いただければ幸いです。お客さまのご要望に応じて適切な樹脂素材をご提案し、安定的かつスムーズに供給いたします。

  |