高周波焼入れとは
高周波誘導加熱(いわゆるIH)を利用して、鋼をはじめ金属の部品や加工物を秒単位で急速加熱し、その後急速冷却して表面を硬化させる熱処理方法です。
加工物を加熱コイルで囲って電流を流すことで熱が生じさせ、その後、噴霧冷却(一般的にはソリブルクエンチという冷却材が使われる)によって冷却します。
表面を急速に加熱・冷却することで、内部の組織との差異が生じ、強度や耐摩耗性、疲労強度、靭性が向上します。また、部品や加工物の変形や寸法の変化といったリスクも最小限に抑えることが可能です。表面の仕上がりも美しくなります。
短時間で行えて大量生産にも向き、エネルギー効率も高いことから、自動車部品、工作機械や建築土木機械の部品など、幅広い分野で活用されてきました。
焼入れと高周波焼入れの違い
一般的な火炎焼入れは温度測定や炎の調整が難しく、品質が技術者の技能や知識に左右されるという側面もあります。
高周波焼入れはコンピュータで温度や速度などを制御できるため、比較的オペレーションが容易です。また、電気を用いて加熱するので加熱速度も早く、かつ資源の使用量やCO₂の排出量も抑えることができます。地球環境にやさしい(Ecological)、経済的にも優れている(Economical)というW-Ecoな表面硬化熱処理の方法として多くの企業が導入しているのです。
コイルの重要性
コイルに加工物を通して加熱するという仕組みは前述のとおりです。
電流の周波数が高くなるにつれてコイルと加工物それぞれの表面に熱が発生するという原理が働いています。これを表皮効果と言います。コイルは主に銅パイプが材料として使われていて、隙間や巻数、高さ、あるいは加熱箇所や後工程で使用する冷却装置との位置関係によって設計する必要があります。
いかに効率が良い加熱装置のコイルを設計するか?これが製品の品質や処理の効率を左右する重要な要素なのです。
高周波焼入れのメリット
前述のとおり、高周波焼入れは表面硬化熱処理であるため、残留応力が大きく、高い強度や耐摩耗性、疲労強度、靭性をもたせることができます。
作業が標準化しやすいので、品質の均一化やコストダウンも可能。大量生産にも向いています。一方で、コイルの設計を変更することで、複雑形状の加工物や部分焼入れにも対応可能です。
急速加熱・冷却で生産性も高く、CO₂の発生も抑えられるので、地球環境にもやさしい熱処理方法と言えます。
- 作業時間が短く、酸化や脱炭、変形も少ない
- 作業の平準化や自動化が可能で生産効率が高い
- 残留応力が大きく、高い耐疲労性が得られる
- 複雑な形状や局所加熱にも対応できる
- 多品種少量にも大量生産にも向いている
【目的別】熱処理の種類
種類(名称) | 目的 | 得られる効果 |
---|---|---|
焼なまし | 体質改善 | 軟化 |
焼ならし | 体質改善 | 硬化 |
焼入れ | 体質改善 | 硬化 |
焼戻し | 体質改善 | 軟化 |
浸炭 | 表面改善 | 表面硬化 |
窒化 | 表面改善 | 表面強化 |
高周波焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
炎焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
電解焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |