窒化とは
窒化とは鋼や合金鋼に窒素原子を拡散浸透させることで金属表面の硬度を高める表面処理のことです。
530~600℃に熱したNH₃・N₂・CO₂の混合ガス雰囲気中に鋼鉄製品を入れることで、数時間後には鉄と窒素が結合した厚み0.03~0.3mmほどの化合物の層(化合物層)が形成され、それによって表面の硬さが高くなります。また、窒化によって耐摩耗性や疲労強度、耐食性、耐熱性を得ることも可能です。
鉄鋼素材の表面を焼戻し温度以下の低温で硬化できるので、他の熱処理と比べて変形や歪みを抑えられます。窒化とひとことで言っても、使うガスの種類や時間、処理温度によってさまざまな種類の処理方法が存在しますので、目的や材質によって適切なものを選択します。
窒化のメリット
変態温度以下で効果が得られるので、焼入れなどと比べて寸法の変化や変形などのリスクが低いです。
硬度を上げるだけではなく、耐摩耗性や疲労強度、耐腐食性、耐熱性など、さまざまな効果があり、鋼鉄製品の性能を向上させることができます。
窒素はもともと自然界に存在する気体であり、それを活用することで環境にも優しくかつ安全な熱処理が実現可能。熱処理のなかでも歴史が古いのですが、非常に優秀な硬化処理の方法として認知されています。
窒化の種類
窒素と鉄の化合物を発生させることで性能を向上させる窒化。下表のとおり、「生成方式」と「添加元素」によって2つのタイプに大分され、合計で6種類の方法があります。
それぞれ使っているガスや方法などが異なり、目的などに応じて使い分けられます。方法や特徴、メリットを詳しく見ていきましょう。
生成方式による主な分類 | 添加元素による主な分類 |
---|---|
ガス窒化 | 窒化 |
塩浴窒化 | 軟窒化 |
プラズマ窒化 | 浸硫窒化 |
生成方式別、窒化の種類
ガス窒化
500℃くらいに熱せられたアンモニアガスの雰囲気中に鉄鋼製品を数時間保持する方法です。
表面に鉄と窒素の化合物層が形成され、表面硬度が高くなります。HV1000~1300もの硬さとなり、最大0.7mmほどの深い効果層を形成させることも可能です。耐熱性、耐腐食性に非常に優れていて、幅広い分野で応用されている窒化技術です。
塩浴窒化
ダフトライト処理とも呼ばれています。塩浴した後に500℃ほどの空気を吹き付け、その後に水で冷却する方法です。
ガス窒化と比較して、短時間で処理できるのがメリットです。高い耐摩耗性や耐かじり性が得られます。また、処理温度が比較的低いので、窒化のなかでも特に変形やひずみのリスクを抑えることが可能です。
プラズマ窒化
窒素と水素を混合したガスを用い、真空雰囲気中で鉄鋼製品と窒化炉の壁との間に数百ボルトの直流電圧を流します。
これによって発生したグロー放電で窒素イオンと水素イオンが製品表面に衝突し化合物層が形成されるのです。材質や用途の自由度が高く、酸化も抑えられるため、精密機械の部品や金型など、多くの分野で活用されています。
添加元素別、窒化の種類
窒化
冒頭でも紹介した、一般的な窒化処理を指します。530~600℃に熱したNH₃・N₂・CO₂の混合ガス雰囲気中に鉄鋼製品を入れると、鉄と窒素が化学変化を起こし、化合物層を形成。これによって表面の硬度や耐摩耗性、疲労強度、耐食性、耐熱性が向上します。
軟窒化
軟窒化とはその名の通り比較的硬度が低い窒化処理のことを指します。硬度は通常鋼でHV400~600。
硬化層は比較的浅いですが、処理時間が他の窒化処理と比べて1~2.5時間と短く、素材による制限も少ないため、工作機械の部品や金型はもちろん、自動車やOA機器の部品など、さまざまな分野で採用されています。
浸硫窒化
アンモニアガスに浸硫性ガスを混合した雰囲気中で行う熱処理です。
変形やひずみを発生させるリスクが低く、品質を均一に保つことが可能です。
高い硬度、耐摩耗性、耐焼付き性、耐かじり性に加え、表面の発熱を抑える効果があり、ギヤ鳴りやピッチングを防ぐこともできます。
機械部品や自動車関連部品の表面処理として採用されていて、ステアリングの部品やギヤなどは浸硫窒化を行うことで騒音軽減や摺動性の向上につながります。
【目的別】熱処理の種類
種類(名称) | 目的 | 得られる効果 |
---|---|---|
焼なまし | 体質改善 | 軟化 |
焼ならし | 体質改善 | 硬化 |
焼入れ | 体質改善 | 硬化 |
焼戻し | 体質改善 | 軟化 |
浸炭 | 表面改善 | 表面硬化 |
窒化 | 表面改善 | 表面強化 |
高周波焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
炎焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
電解焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |