「焼入れ」とは
金属を変態点以上に加熱した後で急速に冷却をすることを焼入れと言います。ポイントとなるのは他の熱処理よりも高い温度まで加熱することと、急速に冷却すること。高温まで加熱をすることで鉄と炭素や合金元素などが均一に溶け合うオーステナイト状態となり、強度がアップします。加熱した後に一気に冷却することで、組織構造が均一になった状態のままマルテンサイト化(鉄の結晶内に炭素が入り込んだ状態)させることができ、硬度や耐摩耗性、疲労強度、引張強さをもたせることができます。
また、焼なましや焼ならしは被加工性を向上させる目的で機械加工の前段階である素材に対して行う熱処理ですが、焼入れは製品の強度をアップさせる目的があるので製品に対して行うというところも、他の熱処理との大きな違いとなります。
焼入れをした後はマルテンサイト変態することで硬化しますが、同時に脆くなってしまいひび割れなどが発生する可能性もあるため、焼戻しという工程を行うのが一般的です。
焼入れの工程
焼入れには大きく分けて「加熱」「冷却」「調質」という3つの工程があり、これらを経ることで硬く、強固な製品を造り上げることができます。それぞれの工程で何が行われるのか?品質を向上させるためにどんな工夫がなされているのか?工程順序ごとにご紹介します。
加熱
まずは炉で金属を加熱します。亜共析鋼ではA3線よりも30~50℃高い温度まで、析鋼・過共析鋼ではA1線よりも30~50℃高い温度まで熱して保持します。一般的にA3、A1線を超えた温度でオーステナイト化が始まりますが、それよりも高温に加熱することで、均一性をより高めることが可能です。
温度が高すぎると結晶粒が粗大になって靭性が低下してしまいます。逆に低すぎるとオーステナイト化が十分にできず強度が低くなってしまうので、材質や炭素含有量に合わせて焼入れ温度を正確に設定することが重要です。また、保持時間も材質や加工品の大きさ、加熱前の組織状態によって変わります。
冷却
加熱をした後は160℃/秒以上という急速な冷却速度で冷やします。他の熱処理ではこれほど早い冷却速度が求められないので空冷が採用されることが多いのですが、焼入れの場合は空冷では間に合いません。一般的に水を噴霧した後に風を当てる、水もしくは油が入った槽に浸すような技術を用いて急冷します。
冷却が遅れてしまうと、十分な強度を得られることができないため、製品を炉から出してなるべく早く冷却の工程に移すことが求められます。こうして急速に冷やすことで、均一な組織を保ったままマルテンサイト化させ、はじめて焼入れの効果が発揮されるのです。
調質
加熱と冷却を行うことで硬度がアップしますが、一方で脆くなってしまい、衝撃などが加わると割れてしまったり表面にヒビが入ったりする可能性があります。そこで、調質(焼戻し)を行って靭性をもたせます。焼入れよりも低い温度で金属を再度加熱し、組織構造を均一化。耐摩耗性と耐衝撃性のバランスがとれた製品となります。以下の項目でさらに詳しく紹介します。
「焼戻し」とは
焼入れを行った金属は急速に冷却する過程でマルテンサイト変態して強度がアップしますが、粘り強さがないため脆く、製品としてはまだ不完全な状態です。そこで、再度加熱して硬度を調整し、製品に粘り強さをもたせる熱処理のことを焼戻しと言います。焼入れの項目では「調質」と表現しましたが、焼戻しと同じ意味です。
焼入れの温度よりも低温で加熱し、ゆっくり冷却することで、組織が安定して粘り強さが出てきます。残留応力も除去され、硬度と靭性のバランスがとれた製品ができあがります。
焼入れをした後に製品を放置しておくとひび割れなどが起こるリスクもあるため、すぐに焼戻しを行わなければいけません。焼入れと焼戻しはセットで行うのが原則で、必要に応じて2~3回繰り返し行われます。
焼戻しの種類
焼戻しには「低温焼戻し」と「高温焼戻し」の2種類があり、製品の用途や材質によってどちらかを選択します。いずれも前述の通り硬度と脆性を調整する最後の仕上げのような役割を果たしますが、方法によって製品の硬さやしなやかさが変わります。どのような違いがあるのか?どんな用途や材質にはどちらが向いているのか?それぞれ特徴を見ていきましょう。
高温焼戻し
550~600℃の高い温度まで加熱して1時間程度保持した後に空冷します。この過程によって焼入れで残っていたオーステナイトがマルテンサイト化しますので、もう1回焼戻しを行います。これによって鋼の組織がソルバイト化(フェライトとセメンタイトの組織が微細化した状態)し、粘り強さが出てくるのです。硬度は若干低くなりますが、靭性を高くしたい場合に用いられる方法で、シャフトや歯車、ボルトなどの部品を造る際に行われます。
低温焼戻し
150~200℃まで加熱して1時間ほど保持した後に空気で冷却します。低炭素マルテンサイトを構成させることができ、焼入れで生じた内部応力も除去さるので、強度はそのままに、強靭性を与えることが可能となります。靭性は高温焼戻しよりも低いですが、摩耗や経年変化に強く、硬さが求められる刃物や工具類、ゲージ類、プレス金型など幅広い製品で選択されます。
【目的別】熱処理の種類
種類(名称) | 目的 | 得られる効果 |
---|---|---|
焼なまし | 体質改善 | 軟化 |
焼ならし | 体質改善 | 硬化 |
焼入れ | 体質改善 | 硬化 |
焼戻し | 体質改善 | 軟化 |
浸炭 | 表面改善 | 表面硬化 |
窒化 | 表面改善 | 表面強化 |
高周波焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
炎焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |
電解焼入れ | 表面改善 | 表面硬化 |